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『メンテナンス経済に向けて (七)』 [ベーシックインカム]

下は、「ベーシックインカム・実現を探る会 
BIメールニュースNo.072 2010.11.06発行」からの転載です。

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【1】『メンテナンス経済に向けて (七)』      関 曠野
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 今の世界恐慌の根本原因は銀行マネーとその破綻にあることを多くの人々が理解
し始めている。そうした社会の底流の変化がもっとも顕著な国は、やはりこの恐慌
の震源地であるアメリカである。アメリカでは公益に奉仕する公立銀行の設立を求
める声が州レベルで高まっており、それを選挙公約に掲げる政治家も出てきた。最
近、公立銀行設立運動を推進するためのpublicbankingというサイトもネット上に
誕生した。この動きが実を結べば無利子の政府通貨の発行が運動の次の目標になる
だろう。
http://publicbanking.wordpress.com/

 だが政府通貨の発行は簡単なことではない。アメリカの通貨改革運動を代表する
エレン・ブラウンやリチャード・クックの「銀行ではなく議会が通貨を発行すれば
問題は万事解決」という議論はおかしい。銀行による通貨の供給には金融業界の私
利の追求という明確な基準がある。それがいずれ恐慌の原因になるとしても、とに
かく発行の基準は明確である。では政府が発行する通貨の使途や使途の優先順位を
決定する基準はどこにあるのか。議会制と政党政治の枠内では政府通貨は政争の具
になり、選挙で勝った勢力がその基盤の強化や拡大のために使う党派マネーになっ
てしまうだろう。党派マネーは銀行マネーに劣らず経済を撹乱し、おそらく悪性の
インフレを惹き起こすだろう。ゆえに政府通貨という制度は議会制および政党政治
とは両立しない。

 そして政府通貨が信認され流通する根拠は、その使途についての国民の広範でし
っかりした合意である。かってリンカーンやシャハトや高橋是清が政府通貨という
試みに成功しえたのも、南北戦争の戦費調達や恐慌打開のための緊急手段として世
に認識され、社会の合意に問題がなかったからである。このように国民の大多数が
承認し同意する明確な発行基準なしには政府通貨は実現しない。そして国民が政府
通貨の課題は均衡のとれた経済や富の最適な分配にあることを理解できず、経済成
長の神話に呪縛されたままであるなら、政府通貨は破滅の原因になりかねない。

 二十一世紀の現在、政府通貨の発行に明確で健全な基準を与えるもの、それは成
長からメンテナンスへの経済原則の転換である。そこでは価値あるもの、有意義な
ものを真の富として維持保全することへの社会の真摯な関与が、政府通貨の使途と
使途の優先順位を決定するのである。      (続)


<関 曠野 氏 プロフィール>(第一土曜日執筆)
1944年東京生まれ。早稲田大学文学部卒業後、共同通信社記者を経て
1980年より文筆業に専念。専門は思想史、教育論。
著書に『プラトンと資本主義』『ハムレットの方へ』(共に北斗出版)、
『民族とは何か』(講談社現代新書)など。

2009年3月8日の当会主催の勉強会で「生きるための経済」を講演。
講演録
http://bijp.net/transcript/article/27
質疑応答
http://bijp.net/transcript/article/79


ベーシックインカム・実現を探る会
http://bijp.net/


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