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きょうの空(10.08.30) [空のアルバム]

10:44
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「ベーシックインカムを通じて社会を作り直すこと」 [ベーシックインカム]

下は、「ベーシックインカム・実現を探る会 BIメールニュースNo.062」
(2010.8.28発行)からの転載です。

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ベーシックインカムを通じて社会を作り直すこと    田村哲樹
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 このエッセイでは、BIを通じて「社会」を作り直すというシナリオを描いてみ
たい。ここで「社会」とは、「国家」と「市場」から区別された空間を指す。こう
書くと当たり前のことのようだ。しかし、この区別はしばしば曖昧になる。

 たとえば、私たちは、「誰もが勤勉に働く社会」を「よい社会」と思いがちであ
る。「勤勉に働く」ことは「市場」の領域では大切なことだ。だが、「勤勉に働く
人」が、地域や家族のことをきちんと考え、そこで日々起こる問題に向き合ってい
るとは限らない。そもそも、長時間勤務の正規雇用者とその日の暮らしもままなら
ない非正規雇用者とにとって、自分の仕事以外の何かに十分な時間を割くことは難
しい。

 あるいは、「社会」に何か問題が起こった時に「国家の責任」が問われることが
ある。確かに「国家」は、「社会」に起こった問題に対応する必要がある。だが、
「国家」が必ずしもあらゆる問題に対応できる能力がないこと、それにもかかわら
ず「国家」に委ねることで却って問題が起こることを、私たちは既によく知ってい
るはずである。

 「社会」には、日々様々な問題が生じる。だが、そのすべてを「市場」や「国家」
で解決できるわけでも、そうすることが好ましいわけでもない。「社会」の問題は
「社会」で解決できるようにするのがよい。そのためには、私たち自身が「日々の
問題解決者」となることが必要である。  

 ここにBIの意義がある。BIによって労働以外から得られる所得によって、労
働の持つ重みは、実体的にも心理的にも減少する。労働以外のことに使える時間が
増えるとともに、そのような時間の大切さを実感できるようになる。その結果、私
たちは、「社会」の様々な場面における「日々の問題解決者」として行動しようと
考えるようになるかもしれない。

 BIの無条件性は、「日々の問題解決者」になることを強制しない。だが、無条
件であるがゆえに、BIは、すべての人々に「日々の問題解決者」となる機会を提
供できる。「日々の問題解決」に携わる人にだけ支払われる給付は、それに携わる
人/携わらない人という社会的分業を招きかねない。その結果、「仕事が忙しいか
ら」「女性(妻)の役割だから」と、「日々の問題解決」に携わらないことが正当
化されてしまうかもしれない。BIは無条件だからこそ、誰もが「怠け者」になら
ない可能性を提供できるのである。


<田村哲樹 氏 プロフィール>
 専門は政治学・政治理論。特に、民主主義理論、福祉国家論、ジェンダーの政治
学に関心。著書に『政治理論とフェミニズムの間』『熟議の理由』など。1970
年生。名古屋大学大学院法学研究科教授。博士(法学)。


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